このページは、ピアノの先生方が「子供が電子ピアノではピアノ学習が難しい」と言われているポイントを4つにまとめました。これからお子さんにピアノをご用意される場合のご参考にしていただければ幸いです。
目次
その1『音が鳴る構造』
◆アコースティックピアノは、
①鍵盤を叩くと、
②ピアノ内部のハンマーが飛び上がり、
③弦を叩いて発音し、
④響板で増幅することで音が鳴る構造です。
弾く人の、鍵盤を抑える位置、押さえる力加減や方向で
ハンマーが弦に当たるスピードや角度が微妙に変わり、音の大小だけではなく、音色も変化するのです。
その変化幅は、同じ人が同じように弾いたつもりでも、まったく同じ音色は二度と出ないほど繊細なものです。
◆電子ピアノは、
①鍵盤を弾くと
②センサーがそのスピードを検知し音量を決め、
③プロピアニストが弾いた音を高性能マイクで録音した電子音源を
④アンプで増幅し、スピーカーで鳴る構造です。
その2『共鳴と倍音』
アコースティックピアノは、弾いた弦振動に対し、他の弦が共鳴して同時に響きやすい構造なので、音が複雑に絡んで、結果豊かな音色となります。
すべての弦が共鳴するのではなく、相性の良い音とそうで無い音があり、ドに共鳴しやすいのが、ミやソ。レなら、ファ#とラという風に響きあいます。(※正確にはもっと複雑な関係ですが。)
演奏者の弾き方によって倍音の出方や分量も変わります。強く弾けば倍音もたくさん出るという単純なものではありません。
しかし、このバランスこそが演奏者の大きな個性となり、聴き手にその人、固有の音として届きます。。
この「弾き手によりピアノの音色は違う」のを学ぶこと、特に違いを聴き分ける耳の力の成長は、上達に大きく影響しますのでとても重要です。
この耳の成長を促し、自分だけの音を鳴らすには、だれが弾いても録音されたプロの音が出る電子ピアノより、弾き手によってすべて音色が異なるアコースティックピアノの方が適していると言えるでしょう。
その3『ボリューム』
音量調整ができるのが電子ピアノの大きな特徴のひとつです。
しかし、ご購入者の8割以上の方が普段の練習時、”音を小さく絞って弾いている”様子です。
するとこんなことが起こりやすくなります。
「家ではちゃんと弾けていたのに、先生のピアノだとうまく弾けない!」
その理由はシンプルです。
ボリュームを絞ると、弾く力加減と出てくる音量が、本物のピアノのそれと異なるからです。
もちろん、強く弾かないと大きな音が出ないことも問題ですが、それに加えて、小さな音から大きな音までの幅(ダイナミックレンジ)が狭くなりますので、こまかな指先のコントロールが荒くなりがちです。
その結果、ピアニッシモ(小さな音)やフォルテ(大きな音)が汚くなる人が出てくると先生はおっしゃいます。
「急に叩き付けるキツイ音を出すかと思えば、極端に小さい音になる。耳に心地良い音量の幅で弾いてくれないのです。」
アコースティックピアノにはその楽器本来の音量とタッチのバランスがあります。
このくらいの強さで弾けば、これくらいの音が鳴る・・・
しかし、ボリュームを絞った状態でばかり練習していると、このバランスがわかりません。
先生は続けてこうおっしゃいました。
「本物のピアノは鍵盤を押しすぎるとあちこちで雑音が出てキツイ音が鳴ります。だからそうならないように丁寧に弾くようになり、結果、手指のフォームが正しく仕上がるのです。構造上、綺麗な音しか出ない電子ピアノでは、それに気づきにくくフォームが出来ないケースも多いです。」
また、一度ついた癖を直すのはなかなか容易なことではありませんとも・・・。
音量調整が容易だというメリットは、指先の調整が難しくなるというデメリットと表裏一体なのです。
その4『響板』
コンセントがなくても大きな音が鳴るピアノ。
その秘密は、小さな弦の音を大きくする響板にあります。
響板(きょうばん)とは、ピアノの面積いっぱいに張られた薄い板。
ピアノ弦の振動音はとても微細なものですが、これを響板にあてると驚くほど大きな音に変わります。
響板にはもうひとつの特徴があります。
それは、与えた音を真似して響かせるのがとても上手だということ。
子どもが叫べばその子の声を・・
大人が叫べば大人の声を・・・
まるでやまびこのように真似をして返すのです。
電子ピアノは、プロピアニストが弾いた音を高性能マイクで録音し、鍵盤というスイッチをどれくらいの速さで入れるかを検知して、その分の音量をスピーカーから出す仕組みです。
誰が弾いても、プロピアニストの美しい音が出るわけです。
ピアノを学ぶ人は、下手に弾くと汚い音が出るからこそ弾き方を考えるようになる・・・。
電子ピアノでこれを学ぶには、感覚的にはかなり難しいでしょう。
【閑話休題】
ピアノの弦は鋼鉄製。それを豊かな響きに代える響板は木製。鋼鉄製の弦の音をただ大きくするだけなら、金属板の方が、よほど効率がいいはず。
それなのに、なぜ響板は木製なのでしょう?
それは、低い音も高い音も同じように増幅してしまう金属と違い、木には低い音だけを増幅し、必要のない高い音はカットする性質があるからです。
ありのままの弦の音は、実は金属的な『シャンシャン』というノイズに満ちた音なんです。もしそれを増幅したら、ピアノは巨大なノイズ発生器になってしまいます。
そうならないのは、響板の材料である木が高い倍音成分をカットし、耳に心地よい楽音成分だけを選択して、豊かな響きに変えているからなんです。
つまり、響板は響かせるための板であると同時に、響かせないための板でもあるのです。
なかでもスプルースをはじめとするエゾマツの仲間が響板材として選ばれるのは、高い倍音をより効果的に吸収して、まろやかに感じられる高さの音のみを豊かに響かせる特性が高いからです。
まとめ:これらの違いが弾き手にどう影響するのか
そして、アコースティックピアノは、乱暴に弾けば汚い音が出ますが、電子ピアノは乱暴に弾いても綺麗な音しか出せません。
特に子供は、綺麗、汚いに敏感です。
常に綺麗な音を出そうと気を付けながら弾くことで、体の使い方、手や指のフォームを正しく身につけていけるのです。
ピアノに限らず、音楽は自己表現です。そしてピアノの自己表現とは音色そのものです。あの艶やかな音色にあこがれてピアノを始める方がほとんどだと思います。
そして、音色という驚くほど繊細で感性的な学びのゾーンは、教えて出来るというより、本人が気づくかどうかが大事です。
テクニックや、音の長さ、リズム、音量の大小などは、電子ピアノでも学べますが、このゾーンは電子ピアノでは困難です。
事情等で、電子ピアノで練習する方も、できる限りアコースティックピアノ弾く機会が多くあったほうが良いと思います。
いかがでしたか?
アコースティックピアノでは可能でも、電子ピアノでは難しい4つの事象がご理解いただけましたでしょうか。
是非ご参考にして、素敵な1台と出会っていただきたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。